すか?」
ペップは金口《きんぐち》の煙草の煙をまず悠々《ゆうゆう》と吹き上げてから、いかにもつまらなそうに返事をしました。
「罰しますとも。死刑さえ行なわれるくらいですからね。」
「しかし僕は一月《ひとつき》ばかり前に、……」
僕は委細を話した後《のち》、例の刑法千二百八十五条のことを尋ねてみました。
「ふむ、それはこういうのです。――『いかなる犯罪を行ないたりといえども、該《がい》犯罪を行なわしめたる事情の消失したる後は該犯罪者を処罰することを得ず』つまりあなたの場合で言えば、その河童《かっぱ》はかつては親だったのですが、今はもう親ではありませんから、犯罪も自然と消滅するのです。」
「それはどうも不合理ですね。」
「常談《じょうだん》を言ってはいけません。親だった[#「だった」に傍点]河童も親である[#「である」に傍点]河童も同一に見るのこそ不合理です。そうそう、日本の法律では同一に見ることになっているのですね。それはどうも我々には滑稽《こっけい》です。ふふふふふふふふふふ。」
ペップは巻煙草をほうり出しながら、気のない薄笑いをもらしていました。そこへ口を出したのは法律には縁の
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