たから、何がおかしいかと詰問しました。なんでもチャックの返答はだいたいこうだったように覚えています。もっとも多少細かいところは間違《まちが》っているかもしれません。なにしろまだそのころは僕も河童の使う言葉をすっかり理解していなかったのですから。
「しかし両親のつごうばかり考えているのはおかしいですからね。どうもあまり手前勝手ですからね。」
その代わりに我々人間から見れば、実際また河童《かっぱ》のお産ぐらい、おかしいものはありません。現に僕はしばらくたってから、バッグの細君のお産をするところをバッグの小屋へ見物にゆきました。河童もお産をする時には我々人間と同じことです。やはり医者や産婆《さんば》などの助けを借りてお産をするのです。けれどもお産をするとなると、父親は電話でもかけるように母親の生殖器に口をつけ、「お前はこの世界へ生まれてくるかどうか、よく考えた上で返事をしろ。」と大きな声で尋ねるのです。バッグもやはり膝《ひざ》をつきながら、何度も繰り返してこう言いました。それからテエブルの上にあった消毒用の水薬《すいやく》でうがいをしました。すると細君の腹の中の子は多少気兼ねでもしていると
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