ものをしまう時にも格別不便はしないのです。ただ僕におかしかったのは腰のまわりさえおおわないことです。僕はある時この習慣をなぜかとバッグに尋ねてみました。すると[#「すると」は底本では「ずると」]バッグはのけぞったまま、いつまでもげらげら笑っていました。ィまけに「わたしはお前さんの隠しているのがおかしい」と返事をしました。

        四

 僕はだんだん河童の使う日常の言葉を覚えてきました。従って河童の風俗や習慣ものみこめるようになってきました。その中でも一番不思議だったのは河童は我々人間の真面目《まじめ》に思うことをおかしがる、同時に我々人間のおかしがることを真面目に思う――こういうとんちんかんな習慣です。たとえば我々人間は正義とか人道とかいうことを真面目に思う、しかし河童はそんなことを聞くと、腹をかかえて笑い出すのです。つまり彼らの滑稽《こっけい》という観念は我々の滑稽という観念と全然標準を異《こと》にしているのでしょう。僕はある時医者のチャックと産児制限の話をしていました。するとチャックは大口をあいて、鼻目金《はなめがね》の落ちるほど笑い出しました。僕はもちろん腹が立ちまし
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