も裁判《さいばん》を重ねた結果、主犯《しゅはん》蟹は死刑になり、臼、蜂、卵等の共犯は無期徒刑の宣告を受けたのである。お伽噺《とぎばなし》のみしか知らない読者はこう云う彼等の運命に、怪訝《かいが》の念を持つかも知れない。が、これは事実である。寸毫《すんごう》も疑いのない事実である。
蟹《かに》は蟹自身の言によれば、握り飯と柿《かき》と交換した。が、猿は熟柿《じゅくし》を与えず、青柿《あおがき》ばかり与えたのみか、蟹に傷害を加えるように、さんざんその柿を投げつけたと云う。しかし蟹は猿との間《あいだ》に、一通の証書も取り換《か》わしていない。よしまたそれは不問《ふもん》に附しても、握り飯と柿と交換したと云い、熟柿とは特に断《ことわ》っていない。最後に青柿を投げつけられたと云うのも、猿に悪意があったかどうか、その辺《へん》の証拠は不十分である。だから蟹の弁護に立った、雄弁の名の高い某弁護士も、裁判官の同情を乞うよりほかに、策の出づるところを知らなかったらしい。その弁護士は気の毒そうに、蟹の泡を拭ってやりながら、「あきらめ給え」と云ったそうである。もっともこの「あきらめ給え」は、死刑の宣告を下
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