の暮しにも差支えるような身の上でございましたから、そう云う願《がん》をかけたのも、満更《まんざら》無理はございません。
「死んだおふくろと申すのは、もと白朱社《はくしゅしゃ》の巫子《みこ》で、一しきりは大そう流行《はや》ったものでございますが、狐《きつね》を使うと云う噂《うわさ》を立てられてからは、めっきり人も来なくなってしまったようでございます。これがまた、白あばたの、年に似合わず水々しい、大がらな婆さんでございましてな、何さま、あの容子《ようす》じゃ、狐どころか男でも……」
「おふくろの話よりは、その娘の話の方を伺いたいね。」
「いや、これは御挨拶で。――そのおふくろが死んだので、後は娘一人の痩《や》せ腕でございますから、いくらかせいでも、暮《くらし》の立てられようがございませぬ。そこで、あの容貌《きりょう》のよい、利発者《りはつもの》の娘が、お籠《こも》りをするにも、襤褸《つづれ》故に、あたりへ気がひけると云う始末でございました。」
「へえ。そんなに好《い》い女だったかい。」
「左様でございます。気だてと云い、顔と云い、手前の欲目では、まずどこへ出しても、恥しくないと思いましたが
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