年となく、辛抱して待つてゐたのが、如何にも、無駄な骨折のやうに、見えてしまふ。出来る事なら、突然何か故障が起つて一旦、芋粥が飲めなくなつてから、又、その故障がなくなつて、今度は、やつとこれにありつけると云ふやうな、そんな手続きに、万事を運ばせたい。――こんな考へが、「こまつぶり」のやうに、ぐるぐる一つ所を廻つてゐる中に、何時か、五位は、旅の疲れで、ぐつすり、熟睡してしまつた。
翌朝、眼がさめると、直《すぐ》に、昨夜の山の芋の一件が、気になるので、五位は、何よりも先に部屋の蔀《しとみ》をあげて見た。すると、知らない中に、寝すごして、もう卯時《うのとき》をすぎてゐたのであらう。広庭へ敷いた、四五枚の長筵《ながむしろ》の上には、丸太のやうな物が、凡《およ》そ、二三千本、斜につき出した、檜皮葺《ひはだぶき》の軒先へつかへる程、山のやうに、積んである。見るとそれが、悉く、切口三寸、長さ五尺の途方もなく大きい、山の芋であつた。
五位は、寝起きの眼をこすりながら、殆ど周章に近い驚愕《きやうがく》に襲はれて、呆然《ばうぜん》と、周囲を見廻した。広庭の所々には、新しく打つたらしい杭の上に五斛納釜《ご
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