》いて見ると、占城《チャンパ》[#ルビの「チャンパ」は底本では「チャンバ」]という物だと答えるじゃないか? 僕の友だち多しといえども、占城《チャンパ》なぞという着物を着ているものは、若槻を除いては一人もあるまい。――まずあの男の暮しぶりといえば、万事こういった調子なんだ。
「僕はその日《ひ》膳《ぜん》を前に、若槻と献酬《けんしゅう》を重ねながら、小えんとのいきさつを聞かされたんだ。小えんにはほかに男がある。それはまあ格別《かくべつ》驚かずとも好《よ》い。が、その相手は何かと思えば、浪花節語《なにわぶしかた》りの下《した》っ端《ぱ》なんだそうだ。君たちもこんな話を聞いたら、小えんの愚《ぐ》を哂《わら》わずにはいられないだろう。僕も実際その時には、苦笑《くしょう》さえ出来ないくらいだった。
「君たちは勿論知らないが、小えんは若槻に三年この方、随分尽して貰っている。若槻は小えんの母親ばかりか、妹の面倒も見てやっていた。そのまた小えん自身にも、読み書きといわず芸事《げいごと》といわず、何でも好きな事を仕込ませていた。小えんは踊《おど》りも名を取っている。長唄《ながうた》も柳橋《やなぎばし》では
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