一つの作が出来上るまで
――「枯野抄」――「奉教人の死」――
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)辿《たど》つて

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(例)[#地から1字上げ](大正九年三月)
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 或る一つの作品を書かうと思つて、それが色々の径路を辿《たど》つてから出来上がる場合と、直ぐ初めの計画通りに書き上がる場合とがある。例へば最初は土瓶《どびん》を書かうと思つてゐて、それが何時《いつ》の間《ま》にか鉄瓶に出来上がることもあり、又初めから土瓶を書かうと思ふと土瓶がそのまま出来上がることもある。その土瓶にしても蔓《つる》を籐《とう》にしようと思つてゐたのが竹になつたりすることもある。私《わたし》の作品の名を上げて言へば「羅生門《らしやうもん》」などはその前者であり、今ここに話さうと思ふ「枯野抄《かれのせう》」「奉教人《ほうけうにん》の死」などはその後者である。
 その「枯野抄」といふ小説は、芭蕉翁《ばせををう》の臨終《りんじゆう》に会つた弟子《でし》達、其角《きかく》、去来《きよらい》、丈艸《ぢやうさう》などの心持を描
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