伊東から
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)御座候《ござさふら》へども

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)心得|居《を》り候

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ]芥川龍之介
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 拝啓。小生は、元来新聞の編輯に無経験なるものに御座候《ござさふら》へども文芸上の作品は文芸欄に載《の》るものと心得|居《を》り候。然るに四月十三日の時事新報(静岡版)は文芸上の作品を文芸欄以外に掲《かか》げ居り候。それは「けふの自習課題」と申すものに之有《これあり》候。
 小学四年。さくらの花はどんなくみたてになつてゐますか?
 小学五年。花崗岩《くわかうがん》はどんな鉱物から出来てゐますか?
 小学六年。海藻《かいさう》の効用をのべなさい。
 これは勿論《もちろん》詩と存じ候。殊に桜の花の「くみたて」などと申す言葉は稚拙《ちせつ》の妙言ふべからず候。何か編輯上の手違ひとは存じ候へども、爾来《じらい》かかる作品は文芸欄へお収《をさ》め下され度《たく》、切望の至りに堪《た》へず候。右差し出がましき次第な
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