いたいかたぎまくら》」を見よ。
「台所より飛びあがり、奥の方を心がけ、襖《ふすま》のすこし明《あ》きたるあひよりそつと下《お》りて大座敷へ出《いで》、(中略)唐更紗《たうざらさ》の暖簾《のれん》あげて、長四畳《ながよでふ》の間《ま》を過ぎ、一だんたかき小座敷あつて、有明《ありあけ》の火明らかに、是《これ》ぞ此家《このや》の旦那《だんな》殿の寝所《しんじよ》ならめと腰障子をすこしつきやぶりて、是より入つて見れば夫婦枕をならべて、前後も知らず連れ節《ぶし》の鼾《いびき》に、(中略)先《まづ》内儀《ないぎ》の顔をさし覗《のぞ》いて見れば、其《その》美しさ此《この》器量で三十ばかりに見ゆれば、卅五六でもあるべし。(中略)男は三十一二に見えて、成程《なるほど》強さうな生れつき。扨《さて》は此女房の美しいに思ひつきて、我より二つ四つも年のいたをもたれしか、但《ただし》入り聟《むこ》か、(中略)と亭主《ていしゆ》が懐《ふところ》にはいればそのまま魂《たましひ》入れ替り、(中略)さあ夢さましてもてなしやと云へば、此女房目をさまし、肝《きも》のつぶれた顔して、あたりへ我をつきのけ、起きかへつて、コレ気ち
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