田群兵衛《たかたぐんべえ》などになると、畜生より劣っていますて。」
忠左衛門は、眉をあげて、賛同を求めるように、堀部弥兵衛を見た。慷慨家《こうがいか》の弥兵衛は、もとより黙っていない。
「引き上げの朝、彼奴《きゃつ》に遇《あ》った時には、唾を吐きかけても飽き足らぬと思いました。何しろのめのめと我々の前へ面《つら》をさらした上に、御|本望《ほんもう》を遂げられ、大慶の至りなどと云うのですからな。」
「高田も高田じゃが、小山田庄左衛門《おやまだしょうざえもん》などもしようのないたわけ者じゃ。」
間瀬久太夫が、誰に云うともなくこう云うと、原惣右衛門や小野寺十内も、やはり口を斉《ひと》しくして、背盟《はいめい》の徒を罵りはじめた。寡黙な間喜兵衛でさえ、口こそきかないが、白髪《しらが》頭をうなずかせて、一同の意見に賛同の意を表した事は、度々《どど》ある。
「何に致せ、御一同のような忠臣と、一つ御《ご》藩に、さような輩《やから》が居《お》ろうとは、考えられも致しませんな。さればこそ、武士はもとより、町人百姓まで、犬侍《いぬざむらい》の禄盗人《ろくぬすびと》のと悪口《あっこう》を申して居《お》る
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