いに同盟を脱しましたのは、心外と申すよりほかはございません。そのほか、新藤源四郎《しんどうげんしろう》、河村伝兵衛《かわむらでんびょうえ》、小山源五左衛門《こやまげんござえもん》などは、原惣右衛門より上席でございますし、佐々小左衛門《ささこざえもん》なども、吉田忠左衛門より身分は上でございますが、皆一挙が近づくにつれて、変心致しました。その中には、手前の親族の者もございます。して見ればお恥しい気のするのも無理はございますまい。」
 一座の空気は、内蔵助のこの語《ことば》と共に、今までの陽気さをなくなして、急に真面目《まじめ》な調子を帯びた。この意味で、会話は、彼の意図通り、方向を転換したと云っても差支えない。が、転換した方向が、果して内蔵助にとって、愉快なものだったかどうかは、自《おのずか》らまた別な問題である。
 彼の述懐を聞くと、まず早水藤左衛門は、両手にこしらえていた拳骨《げんこつ》を、二三度膝の上にこすりながら、
「彼奴等《きゃつら》は皆、揃いも揃った人畜生《にんちくしょう》ばかりですな。一人として、武士の風上《かざかみ》にも置けるような奴は居りません。」
「さようさ。それも高
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