ながら、等分に見比べた。
「はあ、いや、あの話でございますか。人情と云うものは、実に妙なものでございます。御一同の忠義に感じると、町人百姓までそう云う真似がして見たくなるのでございましょう。これで、どのくらいじだらくな上下《じょうげ》の風俗が、改まるかわかりません。やれ浄瑠璃《じょうるり》の、やれ歌舞伎のと、見たくもないものばかり流行《はや》っている時でございますから、丁度よろしゅうございます。」
会話の進行は、また内蔵助にとって、面白くない方向へ進むらしい。そこで、彼は、わざと重々しい調子で、卑下《ひげ》の辞を述べながら、巧《たくみ》にその方向を転換しようとした。
「手前たちの忠義をお褒《ほ》め下さるのは難有《ありがた》いが、手前|一人《ひとり》の量見では、お恥しい方が先に立ちます。」
こう云って、一座を眺めながら、
「何故かと申しますと、赤穂一藩に人も多い中で、御覧の通りここに居りまするものは、皆|小身者《しょうしんもの》ばかりでございます。もっとも最初は、奥野将監《おくのしょうげん》などと申す番頭《ばんがしら》も、何かと相談にのったものでございますが、中ごろから量見を変え、つ
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