う》つて踊り、或は四《よ》つ足門《あしもん》の屋根の下に日の光を恐れて蹲《うづくま》る恐しい姿を度々《たびたび》見た。いやそればかりではない。或時は山の法師《はふし》の背にしがみつき、或時は内《うち》の女房《にようばう》の髪にぶら下つてゐるのを見たと云ふ。
しかしそれらの悪魔の中で、最も我々に興味のあるものは、なにがしの姫君《ひめぎみ》の輿《こし》の上に、あぐらをかいてゐたと云ふそれであらう。古写本《こしやほん》の作者は、この悪魔の話なるものをうるがん[#「うるがん」に傍点]の諷諭《ふうゆ》だと解してゐる。――信長が或時、その姫君に懸想《けさう》して、たつて自分の意に従はせようとした。が、姫君も姫君の双親《ふたおや》も、信長の望に応ずる事を喜ばない。そこでうるがん[#「うるがん」に傍点]は姫君の為に、言を悪魔に藉《か》りて、信長の暴を諫《いさ》めたのであらうと云ふのである。この解釈の当否は、元より今日《こんにち》に至つては、いづれとも決する事が容易でない。と同時に又我々にとつては、寧《むし》ろいづれにせよ差支《さしつか》へのない問題である。
うるがん[#「うるがん」に傍点]は或日の
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