が、テイツチエンズ女史も庸才ではない。女史の本は二冊ある。これは一九一七年に出た、二冊目の PROFILES FROM CHINA から訳した。訳はいづれも自由訳である。

     月光
       ――Judith Gautier――

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満月は水より出で、
海は銀《しろがね》の板となりぬ。
小舟には、人々|盞《さかづき》を干し、
月明りの雲、かそけきを見る。
山の上に漂《ただよ》ふ雲。

人々あるひは云ふ、――
皇帝の白衣の后《きさき》と、
あるひは云ふ、――
天《あま》翔《かけ》る鵠《くぐひ》のむれと。
[#ここで字下げ終わり]

     陶器《すゑもの》の亭《ちん》
        ――同上――

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人工の湖《みづうみ》のなか
緑と青と、陶器《すゑもの》の亭《ちん》一つ。
かよひぢは碧玉《へきぎよく》の橋なり。
橋の反《そ》り、虎の背に似つ。

亭中に、綵衣《さいい》の人ら。
涼しき酒、盃《さかづき》に干し。
物語り又は詩つくる、
高々と袖かかげつつ、
のけ様《ざま》に帽|頂《かづ》きつつ。

水のなか、
明かにうつれる橋は

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