との間に生れむとする幼な児の足下に至らしめむ。
此幼な児は王の中なる王なり。そは慰めを要するなべての者を慰めむとするなり。
主は汝を主の下に召給へり。バルタザアルよ。汝のたましひは汝の面の如く黒けれど、汝の心は幼な児の心の如くけがれ無し。
主は汝を選み給へり。そは汝の苦しめるが故なり。主は汝に富と幸福と愛とを与へ給はむ。
主は汝に云ひ給はむ。「貧しきをよろこべ。そはまことの富なり」と。主は又汝に云ひ給はむ。「まことの幸福は幸福をすつるにあり。われを愛せ。わが外なる一切の者を愛する勿れ。そはわれのみ愛なればなり」と。』
此言葉と共に神聖な平和が、光の洪水の如くバルタザアルの黒い面に落ちた。
バルタザアルは恍惚として星の云ふ事に耳を傾けた。王は自ら新に生れた人間になりつつあるのを感じたのである。
王の傍には身をひれ伏して、セムボビチスとメンケラとが面を石につけて礼拝してゐる。
バルキスはぢつとバルタザアルを見た。女王は、神の愛にみちた心には己の愛を容るるの余地の無いのを知つたのである。色を変へて憤りながら、女王は一行に直にシバへ帰れと命を下した。
星が語り止むと共に、バル
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