つたかは推察出来ると思ふ。
 例へば、亜剌比亜《アラビア》人の形容を其儘《そのまま》翻訳して居るのに非常に面白いものがある。男女の抱擁《はうよう》を「釦《ボタン》が釦の孔《あな》に嵌まるやうに一緒《いつしよ》になつた」と叙《じよ》してある如き其の一つである。又、バクダッドの宮室庭園を写した文章の如きは、微《び》に入り細《さい》を穿《うが》つて居《を》つて、光景見るが如きものがある。第三十六夜(第二巻)の話にある Harunal−Rashid の庭園の描写などは其の好例《かうれい》である。
 バアトンは又|基督《キリスト》教的道徳に煩《わづら》はされずして、大胆率直《だいたんそつちよく》に東洋的享楽主義を是認《ぜにん》した人で、随《したが》つて其の訳本も在来の英訳「一千一夜物語」とは甚だ趣《おもむき》を異《こと》にしてゐる。例へば、第二百十五夜(第三巻)に Budur 女王の歌ふ詩に次の如きものがある。
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