てゐた。すると向うからお嬢さんが一人《ひとり》、生《い》け垣《がき》に沿うて歩いて来た。白地の絣《かすり》に赤い帯をしめた、可也《かなり》背《せい》の高いお嬢さんだつた。
「あ、あのお嬢さんは気の毒だなあ。長い脚を持て扱《あつか》つてゐる。」
実際その又お嬢さんの態度はO君の言葉にそつくりだつた。
×
O君は杖《つゑ》を小脇《こわき》にしたまま、或大きい別荘の裏のコンクリイトの塀に立ち小便をしてゐた。そこへ近眼鏡《きんがんきやう》か何かかけた巡査《じゆんさ》が一人《ひとり》通りかかつた。巡査は勿論|咎《とが》めたかつたと見え、白扇《はくせん》でO君を指さすやうにした。
「これです。これです。」
O君は多少|吃《ども》りながら、杖で二三度右の脚を打つた。右の脚は義足だつたから、かんかん云つたのに違ひなかつた。
「僕の家《うち》はそこなんですが、……」
巡査はにやにや笑つたぎり、何も言はずに通りすぎてしまつた。
×
家々の屋根や松の梢《こずゑ》に西日の残つてゐる夕がただつた。僕はキヤンデイイ・ストアアの前に偶然O君と顔を合せた。O君は久しぶりに和服に着
前へ
次へ
全5ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング