じょう》悪魔の所為《しょい》とは覚えたれ。総じてこの「じゃぼ」には、七つの恐しき罪に人間を誘《さそ》う力あり、一に驕慢《きょうまん》、二に憤怒《ふんぬ》、三に嫉妬《しっと》、四に貪望《とんもう》、五に色欲、六に餮饕《てっとう》、七に懈怠《けたい》、一つとして堕獄の悪趣たらざるものなし。されば DS《でうす》 が大慈大悲の泉源たるとうらうえにて、「じゃぼ」は一切諸悪の根本なれば、いやしくも天主の御教《みおしえ》を奉ずるものは、かりそめにもその爪牙《そうが》に近づくべからず。ただ、専念に祈祷《おらしょ》を唱《とな》え、DS の御徳にすがり奉って、万一「いんへるの」の業火《ごうか》に焼かるる事を免るべし」と。われ、さらにまた南蛮の画《え》にて見たる、悪魔の凄じき形相《ぎょうそう》など、こまごまと談りければ、夫人も今更に「じゃぼ」の恐しさを思い知られ、「さてはその蝙蝠《かわほり》の翼、山羊の蹄、蛇《くちなわ》の鱗《うろこ》を備えしものが、目にこそ見えね、わが耳のほとりに蹲《うずくま》りて、淫《みだ》らなる恋を囁くにや」と、身ぶるいして申されたり。われ、その一部始終を心の中《うち》に繰返しつつ、
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