の天狗を造り、邪魔を為さするは、何と云う事ぞ。されど「じゃぼ」と云う天狗、もとよりこの世になしと云うべからず。ただ、DS 安助を造り、安助悪魔と成りし理《ことわり》、聞えずと弁ずるのみ。
 よしまた、「じゃぼ」の成り立は、さる事なりとするも、汝がこれを以て極悪兇猛の鬼物《きぶつ》となす条、甚《はなはだ》以て不審《ふしん》なり。その故は、われ、昔、南蛮寺《なんばんじ》に住せし時、悪魔「るしへる」を目《ま》のあたりに見し事ありしが、彼自らその然らざる理《ことわり》を述べ、人間の「じゃぼ」を知らざる事、夥《おびただ》しきを歎きしを如何《いかん》。云うこと勿れ、巴※[#「田+比」、第3水準1−86−44]※[#「合/廾」、第3水準1−84−19]《はびあん》、天魔の愚弄する所となり、妄《みだり》に胡乱《うろん》の言をなすと。天主と云う名に嚇《おど》されて、正法《しょうぼう》の明《あきらか》なるを悟《さと》らざる汝《なんじ》提宇子《でうす》こそ、愚痴のただ中よ。わが眼《まなこ》より見れば、尊げに「さんた・まりあ」などと念じ玉う、伴天連《ばてれん》の数は多けれど、悪魔「るしへる」ほどの議論者は、一
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