く》、「君もシエリングの如く除名処分を受けしか」と! シエリングも亦《また》僕の如く三十円の金を出し渋《しぶ》りしや否や、僕は未《いま》だ寡聞《くわぶん》にしてこれを知らざるを遺憾《ゐかん》とするものなり。

     二

 僕達のイギリス文学科の先生は、故《こ》ロオレンス先生なり、先生は一日《いちじつ》僕を路上に捉《とら》へ、※[#「女+尾」、第3水準1−15−81]々《びび》数千言を述べられてやまず。然れども僕は先生の言を少しも解すること能《あた》はざりし故、唯|雷《かみなり》に打たれたる唖《おし》の如く瞠目《だうもく》して先生の顔を見守り居たり。先生も亦《また》僕の容子《ようす》に多少の疑惑を感ぜられしなるべし。突如《とつじよ》として僕に問うて曰く、“Are you Mr. K. ?”僕、答へて曰く、“No, Sir.”先生は――先生もまた雷に打たれたる唖の如く瞠目せらるること少時《しばらく》の後《のち》、僕を後《うしろ》にして立ち去られたり。僕の親しく先生に接したるは実にこの路上の数分間なるのみ。

     三

 僕等「新思潮《しんしてう》社」同人《どうじん》の列したるは
前へ 次へ
全4ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング