かの機會《きくわい》に紅毛人《こうもうじん》たちにも一|椀《わん》の「しるこ」をすすめて見《み》るが善《よ》い。彼等《かれら》は天《てん》ぷらを愛《あい》するやうに「しるこ」をも必《かなら》ず――愛《あい》するかどうかは多少《たしよう》の疑問《ぎもん》はあるにもせよ、兎《と》に角《かく》一|應《おう》はすすめて見《み》る價値《かち》のあることだけは確《たし》かであらう。
 僕《ぼく》は今《いま》もペンを持《も》つたまま、はるかにニユウヨオクの或《ある》クラブに紅毛人《こうもうじん》の男女《だんぢよ》が七八|人《にん》、一|椀《わん》の「しるこ」を啜《すゝ》りながら、チヤアリ、チヤプリンの離婚問題《りこんもんだい》か何《なん》かを話《はな》してゐる光景《くわうけい》を想像《さうぞう》してゐる。それから又《また》パリの或《ある》カツフエにやはり紅毛人《こうもうじん》の畫家《ぐわか》が一人《ひとり》、一|椀《わん》の「しるこ」を啜《すゝ》りながら、――こんな想像《さうぞう》をすることは閑人《かんじん》の仕事《しごと》に相違《さうゐ》ない。しかしあの逞《たくま》しいムツソリニも一|椀《わん》の
前へ 次へ
全4ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング