列をそこに止めて、供頭《ともがしら》の口からその趣をしかじかと帝へ奏聞《そうもん》した。帝はこれを聞《きこ》し召されて、
「かほどの大男のことなれば、一定《いちぢやう》武勇も人に超えつらう。召し抱へてとらせい。」と、仰せられたれば、格別の詮議とあつて、すぐさま同勢の内へ加へられた。「れぷろぼす」の悦びは申すまでもあるまじい。ぢやによつて帝の行列の後から、三十人の力士もえ舁《か》くまじい長櫃《ながびつ》十棹《とさを》の宰領を承つて、ほど近い御所の門まで、鼻たかだかと御供仕つた。まことこの時の「れぷろぼす」が、山ほどな長櫃を肩にかけて、行列の人馬を目の下に見下しながら、大手をふつてまかり通つた異形《いぎやう》奇体の姿こそ、目ざましいものでおぢやつたらう。
さてこれより「れぷろぼす」は、漆紋《うるしもん》の麻裃《あさがみしも》に朱鞘の長刀《なががたな》を横たへて、朝夕「あんちおきや」の帝の御所を守護する役者の身となつたが、幸《さいはひ》ここに功名手がらを顕《あらは》さうず時節が到来したと申すは、ほどなく隣国の大軍がこの都を攻めとらうと、一度に押し寄せて参つたことぢや。元来この隣国の大将は、
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