」の都と申すは、この頃|天《あめ》が下に並びない繁華の土地がらゆゑ、山男が巷《ちまた》へはいるや否や、見物の男女《なんによ》夥《おびただ》しうむらがつて、はては通行することも出来まじいと思はれた。されば「れぷろぼす」もとんと行かうず方角を失うて、人波に腰を揉《も》まれながら、とある大名小路の辻に立ちすくんでしまうたに、折よくそこへ来かかつたは、帝《みかど》の御輦《ぎよれん》をとりまいた、侍たちの行列ぢや。見物の群集《ぐんじゆ》はこれに先を追はれて、山男を一人残いた儘《まま》、見る見る四方へ遠のいてしまうた。ぢやによつて「れぷろぼす」は、大象の足にまがはうずしたたかな手を大地について、御輦の前に頭を下げながら、
「これは『れぷろぼす』と申す山男でござるが、唯今『あんちおきや』の帝は、天下無双の大将と承り、御奉公申さうずとて、はるばるこれまでまかり上つた。」と申し入れた。これよりさき、帝の同勢も、「れぷろぼす」の姿に胆《きも》をけして、先手は既に槍《やり》薙刀《なぎなた》の鞘《さや》をも払はうずけしきであつたが、この殊勝な言《ことば》を聞いて、異心もあるまじいものと思ひつらう、とりあへず行
前へ
次へ
全30ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング