獅子王をも手打ちにすると聞えた、万夫不当《ばんぷふたう》の剛の者でおぢやれば、「あんちおきや」の帝とても、なほざりの合戦はなるまじい。ぢやによつて今度の先手《さきて》は、今まゐりながら「れぷろぼす」に仰せつけられ、帝は御自《おんみづか》ら本陣に御輦《ぎよれん》をすすめて、号令を司《つかさど》られることとなつた。この采配を承つた「れぷろぼす」が、悦び身にあまりて、足の踏みども覚えなんだは、毛頭無理もおぢやるまい。
やがて味方も整へば、帝は、「れぷろぼす」をまつさきに、貝金《かひがね》陣太鼓の音も勇しう、国ざかひの野原に繰り出された。かくと見た敵の軍勢は、元より望むところの合戦ぢやによつて、なじかは寸刻もためらはう。野原を蔽《おほ》うた旗差物が、俄《にはか》に波立つたと見てあれば、一度にどつと鬨《とき》をつくつて、今にも懸け合はさうずけしきに見えた。この時「あんちおきや」の人数の中より、一人悠々と進み出《だ》いたは、別人でもない「れぷろぼす」ぢや。山男がこの日の出《い》で立ちは、水牛の兜《かぶと》に南蛮鉄の鎧《よろひ》を着下《きおろ》いて、刃渡り七尺の大薙刀《おほなぎなた》を柄《え》みじ
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