》り騒いで、やにはに四方八方から搦《から》めとらうと競ひ立つた。もとより「れぷろぼす」も日頃ならば、さうなくこの侍だちに組みとめられう筈もあるまじい。なれどもその夜は珍陀の酔《ゑひ》に前後も不覚の体《てい》ぢやによつて、しばしがほどこそ多勢を相手に、組んづほぐれつ、揉《も》み合うても居つたが、やがて足をふみすべらいて、思はずどうとまろんだれば、えたりやおうと侍だちは、いやが上にも折り重つて、怒り狂ふ「れぷろぼす」を高手小手に括《くく》り上げた。帝もことの体《てい》たらくを始終残らず御覧《ごらう》ぜられ、
「恩を讐《あだ》で返すにつくいやつめ。※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々《そうそう》土の牢へ投げ入れい。」と、大いに逆鱗《げきりん》あつたによつて、あはれや「れぷろぼす」はその夜の内に、見るもいぶせい地の底の牢舎へ、禁獄せられる身の上となつた。さてこの「あんちおきや」の牢内に囚《とら》はれとなつた「れぷろぼす」が、その後如何なる仕合せにめぐり合うたか、右の一条を知らうず方々は、まづ次のくだりを読ませられい。

     三 魔往来のこと

 さるほどに「れぷろぼす」は、未《い
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