ごころ》にのせて弄《もてあそ》ぶ、大力量のものでおぢやる。ぢやによつて帝も、悪魔《ぢやぼ》の障碍《しやうげ》を払はうずと思召され、再三十字の印を切つて、御身を守らせ給ふのぢや。」と申した。「れぷろぼす」はこれを聞いて、迂論《うろん》げに又問ひ返したは、
「なれど今『あんちおきや』の帝は、天《あめ》が下に並びない大剛の大将と承つた。されば悪魔《ぢやぼ》も帝の御身には、一指をだに加へまじい。」と申したが、侍は首をふつて、
「いや、いや、帝も、悪魔《ぢやぼ》ほどの御威勢はおぢやるまい。」と答へた。山男はこの答を聞くや否や、大いに憤つて申したは、
「それがしが帝に随身し奉つたは、天下無双の強者《つはもの》は帝ぢやと承つた故でおぢやる。しかるにその帝さへ、悪魔《ぢやぼ》には腰を曲げられるとあるなれば、それがしはこれよりまかり出でて、悪魔《ぢやぼ》の臣下と相成らうず。」と喚《わめ》きながら、ただちに珍陀の盃を抛《なげう》つて、立ち上らうと致いたれば、一座の侍はさらいでも、「れぷろぼす」が今度の功名を妬《ねた》ましう思うて居つたによつて、
「すは、山男が謀叛《むほん》するわ。」と異口同音に罵《ののし
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