お富の貞操
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)午《ひる》過ぎだつた
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)上野|界隈《かいわい》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々《そうそう》
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一
明治元年五月十四日の午《ひる》過ぎだつた。「官軍は明日夜の明け次第、東叡山彰義隊を攻撃する。上野|界隈《かいわい》の町家のものは※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々《そうそう》何処《どこ》へでも立ち退《の》いてしまへ。」――さう云ふ達しのあつた午過ぎだつた。下谷町《したやまち》二丁目の小間物店、古河屋政兵衛《こがやせいべゑ》の立ち退いた跡には、台所の隅の蚫貝《あはびがひ》の前に大きい牡の三毛猫が一匹静かに香箱《かうばこ》をつくつてゐた。
戸をしめ切つた家の中は勿論午過ぎでもまつ暗だつた。人音《ひとおと》も全然聞えなかつた。唯耳にはひるものは連日の雨の音ばかりだつた。雨は
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