」
女はちょいと云い澱《よど》んだ後《のち》、今度は朗読でもするようにすらすら用向きを話し出した。新之丞は今年十五歳になる。それが今年《ことし》の春頃から、何ともつかずに煩《わずら》い出した。咳《せき》が出る、食欲《しょくよく》が進まない、熱が高まると言う始末《しまつ》である、しのは力の及ぶ限り、医者にも見せたり、買い薬もしたり、いろいろ養生《ようじょう》に手を尽した。しかし少しも効験《こうけん》は見えない。のみならず次第に衰弱する。その上この頃は不如意《ふにょい》のため、思うように療治《りょうじ》をさせることも出来ない。聞けば南蛮寺《なんばんじ》の神父の医方《いほう》は白癩《びゃくらい》さえ直すと云うことである。どうか新之丞の命も助けて頂きたい。………
「お見舞下さいますか? いかがでございましょう?」
女はこう云う言葉の間《ま》も、じっと神父を見守っている。その眼には憐《あわれ》みを乞う色もなければ、気づかわしさに堪えぬけはいもない。ただほとんど頑《かたく》なに近い静かさを示しているばかりである。
「よろしい。見て上げましょう。」
神父は顋鬚《あごひげ》を引張りながら、考え深
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