僧衣らしい。そう云えば「こんたつ」と称《とな》える念珠《ねんじゅ》も手頸《てくび》を一巻《ひとま》き巻いた後《のち》、かすかに青珠《あおたま》を垂らしている。
堂内は勿論ひっそりしている。神父はいつまでも身動きをしない。
そこへ日本人の女が一人、静かに堂内へはいって来た。紋《もん》を染めた古帷子《ふるかたびら》に何か黒い帯をしめた、武家《ぶけ》の女房らしい女である。これはまだ三十代であろう。が、ちょいと見たところは年よりはずっとふけて見える。第一妙に顔色が悪い。目のまわりも黒い暈《かさ》をとっている。しかし大体《だいたい》の目鼻だちは美しいと言っても差支えない。いや、端正に過ぎる結果、むしろ険《けん》のあるくらいである。
女はさも珍らしそうに聖水盤《せいすいばん》や祈祷机を見ながら、怯《お》ず怯《お》ず堂の奥へ歩み寄った。すると薄暗い聖壇の前に神父が一人|跪《ひざまず》いている。女はやや驚いたように、ぴたりとそこへ足を止めた。が、相手の祈祷していることは直《ただち》にそれと察せられたらしい。女は神父を眺めたまま、黙然《もくねん》とそこに佇《たたず》んでいる。
堂内は不相変《あい
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