おしの
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)南蛮寺《なんばんじ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一人|跪《ひざまず》いている
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正十二年三月)
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ここは南蛮寺《なんばんじ》の堂内である。ふだんならばまだ硝子画《ガラスえ》の窓に日の光の当っている時分であろう。が、今日は梅雨曇《つゆぐも》りだけに、日の暮の暗さと変りはない。その中にただゴティック風の柱がぼんやり木の肌《はだ》を光らせながら、高だかとレクトリウムを守っている。それからずっと堂の奥に常燈明《じょうとうみょう》の油火《あぶらび》が一つ、龕《がん》の中に佇《たたず》んだ聖者の像を照らしている。参詣人はもう一人もいない。
そう云う薄暗い堂内に紅毛人《こうもうじん》の神父《しんぷ》が一人、祈祷《きとう》の頭を垂《た》れている。年は四十五六であろう。額の狭《せま》い、顴骨《かんこつ》の突き出た、頬鬚《ほおひげ》の深い男である。床《ゆか》の上に引きずった着物は「あびと」と称《とな》える
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