ん》の盛観と言ふ可し。
先生作る所の小説戯曲随筆等、長短|錯落《さくらく》として五百余編。経《けい》には江戸三百年の風流を呑却《どんきやく》して、万変自ら寸心に溢れ、緯《ゐ》には海東六十州の人情を曲尽して、一息忽ち千載に通ず。真に是れ無縫天上の錦衣。古は先生の胸中に輳《あつま》つて藍玉《らんぎよく》愈|温潤《おんじゆん》に、新は先生の筆下より発して蚌珠《ぼうしゆ》益|粲然《さんぜん》たり。加之《しかのみならず》先生の識見、直ちに本来の性情より出で、夙《つと》に泰西|輓近《ばんきん》の思想を道破せるもの勘《すくな》からず。其の邪を罵り、俗を嗤《わら》ふや、一片氷雪の気天外より来り、我等の眉宇《びう》を撲《う》たんとするの概あり。試みに先生等身の著作を以て仏蘭西羅曼《フランスロマン》主義の諸大家に比せんか、質は※[#「警」の「言」に代えて「手」、第3水準1−84−92]天《けいてん》七宝の柱、メリメエの巧を凌駕す可《ベ》く、量は抜地無憂の樹、バルザツクの大に肩随《けんずゐ》す可し。先生の業|亦《また》偉《おほ》いなる哉。
先生の業の偉いなるは固《もと》より先生の天質に出づ。然りと雖《い
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