題のない詩

話はありませんか
――やせた女の……


やせた女は慰めもなく
肌も寂しく襟をつくろひます

ありませんか――
ありませんか――

静かに
夕方ににじむやせた女の
――話は


夜の庭へ墜ちた煙草の吸ひがら

夜る[#「る」に「ママ」の注記]
少し風があつたので
私はうつかり二階の窓からすてた煙草の吸ひがらが気がかりになりました

―――――――

ねづ[#「づ」に「ママ」の注記]みの糞を庭に埋めたら豆が生え
そして
のびのび のびあがつて雲の上で花が咲いて実がなつた
そして
実がはじけて地べたにころがり落ちた

―――――――

それが
今――
私の捨てた火のついた煙草の吸ひがらだつたのです


昼の部屋

女は 私に白粉の匂ひをかがさうとしてゐるらしい

――女・女

(スプーンがちよつと鉛臭いことがありますが それとはちがひますか)

午後の陽は ガラス戸越に部屋に溜つて

そとは明るい昼なのです


夜半 私は眼さめてゐる

さびた庖丁で 犬の吠え声を切りに
月夜の庭に立ちすくむ――

×

これは きつと病気だ

あの女の顔が青かつた

キツスから うつつた
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