数の顔となり「友人」なることの見わけもつかぬことにはならぬものか。そして、友情による人と人の差別も、恋愛などといふしみつたれた感情もあり得ぬことゝなつてしまふのがよいのだ。
印
屋根につもつた五寸の雪が、陽あたりがわるく、三日もかゝつて音をたてゝ桶をつたつてとけた。庭の椿の枝にくゝりつけて置いた造花の椿が、雪で糊がへげて落ちてゐた。雪が降ると街中を飲み歩きたがる習癖を、今年は銭がちつともないといふ理由で、障子の穴などをつくろつて、火鉢の炭団をつゝいて坐つてゐたのだ。私がたつた一人で一日部屋の中にゐたのだから、誰も私に話かけてゐたのではない。それなのになんといふ迂濶なことだ。私は、何かといふとすぐ新聞などに馬車になんか乗つたりした幅の広い写真などの出る人を、ほんと[#「と」に「ママ」の注記]うはこの私である筈なのがどうしたことかで取り違へられてしまつてゐるのでは、なかなか容易ならぬことだと気がついて、自分でそんなことがあり得ないとは言へ[#「へ」に「ママ」の注記]きれなくなつて、どうすればよいのかと色々思案をしたり、そんなことが事実であれば自分といふものが何処にもゐないことになつ
前へ
次へ
全30ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾形 亀之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング