自分の家ときめてゐる心安さは、便所はどこかと聞かずにもすみ、壁にかゝつてゐるしわくちやの洋服や帽子が自分の背丈や頭のインチに合ひずぼんの膝のおでんのしみもたいして苦にはならぬが、二人の食事に二人前の箸茶碗だけしかをそろへず、箸をとつては尚のこと自分のことだけに終始して胃の腑に食物をつめ込むことを、私は何か後めたいことに感じながらゐるのだ。まだ大人になりきらない犬が魚の骨を食ひに来る他は、夜になると天井のねずみが野菜を食ひに出てくる位ひ[#「ひ」に「ママ」の注記]のもので、台所はいつも小さくごみつぽく、水などがはねて、米櫃のわきにから瓶などが列[#「列」に「ママ」の注記]らんでゐる。又、一山十銭の蕗の薹を何故食べぬうちにひからびさしてしまつたかとは、すてるときに一ツが芥箱の外へころがり出る感情なのであろうか。
夜の飯がすんで、後は寝るばかりだといふたあいなさでもないが、私は結局寝床に入[#「入」に「ママ」の注記]いつて、夜中に二度目をさまして二度目に眠れないで煙草をのんでゐたりするのだ。ときには天井の雨漏りが寝てゐる顔にも落ちてくるのだが、朝は、誰も戸を開けに来るのではなくいつも内側か
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