いぶん大きなセンセイシヨンを起しましたが、間もなく、その写真に写つた馬のやうな形は国ではなく、雲が写つたのではないかといふ疑問が起りました。そこでひきつゞいて円形派の博士達に依つて同じ方法で試め[#「め」に「ママ」の注記]されましたが、今度は尾の方が体よりも大きい狐の襟巻のやうなものが写つてゐました。三角派だつてじつとはしてはゐませんでした。やはり同じ方法で写真を写して降りて来たのですが、写つている棒のやうなものが写真の乾板の両端からはみ出してゐたので、どうにもなりませんでした。
又、これも失敗に終つたのでしたが、大砲の弾丸に目もりをした長い長いこれ位ひ[#「ひ」に「ママ」の注記]長ければ国の端にとゞいても余るだろうと誰もが思つたほど長いテイプを結びつけて打つた博士がありました。が、まだいくらでもテイプが残つていたのに大砲の弾丸は八里ばかり先の原つぱに落ちてゐたのでした。これはあまり馬鹿げているといふので、新聞の漫画になつて出たりしたので、真面目なその博士は「これからです」と訪問した新聞記者に一言して、青い顔をして第一回の距離をノートに書きとめて更にそのところから第二回の弾丸を打ちました。この博士は同じことをくりかへして進んで行つてしまつたのです。始めのうちは通信などもあつたのですが、次第にはその消息さへ絶えてしまつて、博士が第一回の発砲をしてから五年も経過した頃は、街の人達は未だにその博士が発砲をつゞけながら前進してゐることを忘れてしまひました。気の毒なのはこの博士ばかりではないのですが、出発が出発なだけに困つた気持になつてしまひます。
又、かうした現実派の他に無限大などと言ふ神秘主義の博士達のゐたことも事実でした。この博士達は時間などは度外視してゐたのでせう。雑誌や新聞の紙面に線なんかを引いたりして、測り知れないほどの面積であつても決して無限ではないとかあるとか、実に盛んな論争を幾百年つゞけてきたことであらう。又、一ヶ年の小麦の総収穫から割り出して国の広さを測り出さうとしたアマチアもありましたが、計算の途中で麦畑でない地面もあるのに気がついて中止しました。勿論汽車などもすでにあつたのですが、創設以来しきりなしに先へ先へと敷設してゐても、その先がどの位ひ[#「ひ」に「ママ」の注記]あるのかは博士達のそれと同じやうに全くはてしないばかりでなく、最初に出て行つたその汽車は今では何処へ行つても見られないやうな旧式な機関車なので、未だにそれが先へ先へと進んでゐることを思ふと、どう判断していゝのかわからなくなるのです。それに、レールの幅が昔の三倍にもなつてしまつてゐるのですから、もし最初の人達がひきかえへして来ることになつて又幾百年かかるのはいゝとしても、何処かでレールの幅が合はなくなつてゐるにきまつてゐることが心配です。
そこには海もありしたがつて港もあるのですが、海は陸よりもゝつとたよりない成績しかあがりませんでした。どうしてこんな国が出来てしまつたかは大昔にさかのぼらなければなりません。大昔といつてもただの大昔ではなく一番の大昔なのです。千年以上も前なのか二万年も以前のことなのかわからないのです。その大昔に、何処か或る所に一人の王様がゐて、だんだんに年寄になつて、三人か四人の王子達もすつかり大人になつてゐたのです。そこで、一日王様は王子達を集めてそのうちから誰かを一人の世嗣に定めることになりました。背の高さをはかつてみたり、足の大きさを較ら[#「ら」に「ママ」の注記]べてみたりしてみましたが、それでは誰にきめてよいのか王様にはわかりませんでした。で、一人々々に「お前はどんな王国が欲しいか」と問ひますと、百までしか数を知つてゐなかつた王子は「百里の百倍ある国が欲しい」その次の王子は「百里の百倍ある国の千倍欲しい」などと答へたのですが、豆ほどの小い[#「い」に「ママ」の注記]さな円を床に画いて「この外側全部欲しい」と答えた王子とはとても匹敵しませんでした。王様もその答へにはすつかり感心してしまつて、すぐ世嗣はその王子と決定したのです。その頃は貯金などといふものが流行して、円そのものに一日いくら月幾分などと銭が少しづつ子を生むやうに利子がついたものです。で、その利子の殖えるのをうれしがつて銭を舌[#「舌」に「ママ」の注記]めてみたり利子が異数に加算される方法を発明したり、大勢の人達の貯金を上手に利用したりする社[#「社」に「ママ」の注記]会があつたのです。その王子が最もよくばつてゐたといふので世嗣に選ばれたことは言ふまでもないことです。全く、銭のない人達こそいゝ面の皮だつたのです。いくら働ら[#「ら」に「ママ」の注記]いても、働ら[#「ら」に「ママ」の注記]けば働くほどもらつた賃金では足らぬほど腹が空くやうな仕掛に、うまく仕組ま
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