の汽車は今では何処へ行つても見られないやうな旧式な機関車なので、未だにそれが先へ先へと進んでゐることを思ふと、どう判断していゝのかわからなくなるのです。それに、レールの幅が昔の三倍にもなつてしまつてゐるのですから、もし最初の人達がひきかえへして来ることになつて又幾百年かかるのはいゝとしても、何処かでレールの幅が合はなくなつてゐるにきまつてゐることが心配です。
 そこには海もありしたがつて港もあるのですが、海は陸よりもゝつとたよりない成績しかあがりませんでした。どうしてこんな国が出来てしまつたかは大昔にさかのぼらなければなりません。大昔といつてもただの大昔ではなく一番の大昔なのです。千年以上も前なのか二万年も以前のことなのかわからないのです。その大昔に、何処か或る所に一人の王様がゐて、だんだんに年寄になつて、三人か四人の王子達もすつかり大人になつてゐたのです。そこで、一日王様は王子達を集めてそのうちから誰かを一人の世嗣に定めることになりました。背の高さをはかつてみたり、足の大きさを較ら[#「ら」に「ママ」の注記]べてみたりしてみましたが、それでは誰にきめてよいのか王様にはわかりませんでした。で、一人々々に「お前はどんな王国が欲しいか」と問ひますと、百までしか数を知つてゐなかつた王子は「百里の百倍ある国が欲しい」その次の王子は「百里の百倍ある国の千倍欲しい」などと答へたのですが、豆ほどの小い[#「い」に「ママ」の注記]さな円を床に画いて「この外側全部欲しい」と答えた王子とはとても匹敵しませんでした。王様もその答へにはすつかり感心してしまつて、すぐ世嗣はその王子と決定したのです。その頃は貯金などといふものが流行して、円そのものに一日いくら月幾分などと銭が少しづつ子を生むやうに利子がついたものです。で、その利子の殖えるのをうれしがつて銭を舌[#「舌」に「ママ」の注記]めてみたり利子が異数に加算される方法を発明したり、大勢の人達の貯金を上手に利用したりする社[#「社」に「ママ」の注記]会があつたのです。その王子が最もよくばつてゐたといふので世嗣に選ばれたことは言ふまでもないことです。全く、銭のない人達こそいゝ面の皮だつたのです。いくら働ら[#「ら」に「ママ」の注記]いても、働ら[#「ら」に「ママ」の注記]けば働くほどもらつた賃金では足らぬほど腹が空くやうな仕掛に、うまく仕組ま
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