ガラスのよごれ


夜の向ふ[#「ふ」に「ママ」の注記]に広い海のある夢を見た

私は毎日一人で部屋の中にゐた
そして 一日づつ日を暮らした

秋は漸くふかく
私は電燈をつけたまゝでなければ眠れない日が多くなつた




私は夜を暗い異様に大きな都会のやうなものではあるまいかと思つてゐる

そして
何処を探してももう夜には昼がない


窓の人

窓のところに肘をかけて
一面に広がつてゐる空を眼を細くして街の上あたりにせばめてゐる


お[#「お」に「ママ」の注記]可しな春

たんぽぽが咲いた
あまり遠くないところから楽隊が聞えてくる


愚かなる秋

秋空が晴れて
縁側に寝そべつてゐる

眼を細くしてゐる

空は見えなくなるまで高くなつてしまへ


秋色

部屋に入つた蜻蛉が庇を出て行つた
明るい陽ざしであつた


幻影

秋は露路[#「路」に「ママ」の注記]を通る自転車が風になる

うす陽がさして
ガラス窓の外に昼が眠つてゐる
落葉が散らばつている


雨の祭日

雨が降ると
街はセメントの匂ひが漂ふ

×

雨は
電車の足をすくはふ[#「ふ」に「ママ」の注記]とする

×


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