俺ら今日は肥料ばっかりだ!」
「庄作さ! 中屋の後家が待っとったぞ!」
 誰か炉端の方でさう怒鳴った。
 庄作はむっつりした顔の儘で馬を飼ってゐた。
「どうだい、景気は?」
 炉端の方へ入って行くと、留吉が上り端に腰掛けて茶を飲んでゐたがいきなり聞いた。
「呆れた話さ! 俺ァ馬に喰はせるに追はれとる……」
 庄作はさう云ひ乍ら土足の儘で炉端へ上り込んだ。それからおとしの酌んで来たコップの酒をチビリチビリ飲み乍ら世間話が続けられた。
「何しろお前、森田の山の材木が出た時分にゃァ日三台は曳っぱって来たんだでなあ! 山は坊主になる。薪一本出て行く荷は有りゃせん……。あれからこっち面白いこたぁさっぱりなくなった。是で又道が開けりゃ自動車だ。俺らの商売はもう上ったりだ……」
 庄作は歎息する様に云った。
「そいでもお前《めい》は金を溜《た》め込んどる話だで困らんが俺らは全く困るよ! 俺ァ繭が十両しとっても困っとったんだで、二両の端《はな》が欠けると来ちゃ法はつかんよ! 俺らは早く道路工事が始まりゃいいと思っとる。何んとか稼ぎが無けにゃ口が干上っちまふ……」
 留吉はさう云ひ乍ら立ち上った。
「俺
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