べ、なるべく米を浮かす工夫をしませう
それは主婦の責任であります
一、したがって、畠仕事に精だし間作を怠らぬやうにしませう
一、毎月米五合、雑巾一枚づつ集めて貯金組合を作りませう
どちらか一方へは必ず加入すること
雑巾は縦一尺、横八寸、糸は二重糸にて刺すこと
[#ここで字下げ終わり]
おときは無感動な顔でそれを読んでゐた。
是は春の婦人会の時提案があったもので、松下のおまきや吉本屋の嫁が主唱者だった。
米は精米所へ、雑巾は朝日館へ売却の契約が出来て実行しはじめたものだった。
「おときさん、今月の分はもうおだしつらなむ?」
「お米の方だけなむ!雑巾縫はずもこちとらにゃァ手間も布もありませんで……。ためになることは解っとるけど仲々そこがやかましくて……」
志津はだまってうなづいた。此の村には製糸工場がないので村内の者は、大抵他村の生産組合へ加盟して供繭してゐるのだった。おときの家でも朝日館の組合員だった。
志津は今度の繭を此処で村廻りの繭買人に壱円八十銭位の馬鹿値で叩き買ひにされるより生産へ持って行きたかった。生産では春蚕を二円の仮渡しをしたといふ事だから、庄作の運送に頼んでやってもいくらか浮く勘定だった。それにはおときに頼んで、おときの家の名義を借りて出すのが得策だった。
志津はそのことを話して見た。
「それが?」おときは顔を歪めるやうにして云った。
「なんしょわしら方ぢゃ生産に借金が有って、春蚕だって無理に借りて来とるやうなわけで今度の夏蚕も飼って見る丈でくる分は更にない……もらふどこぢゃない。こちらからよっぽどお足《た》しが行かにあ勘定にならん……受判頼んで先へ先へ借りてくるもんで、順に困るばっかりな!」
おときは深い溜息をついた。おときの家では、蚕も大取りだしそれに娘が二人も生産の工女になってよく稼ぐので楽にならねば嘘なのだが――。
「ふんと働き足りんのだかなんだか困る困るっていふより他の事は云ったことがない……お盆が来るに着物がねえって、清子ら悲しがるで、わしもやる瀬がねえがどう思っても仕ようないもの!」
おときはさう云って寂しくわらった。
九
降りつづいてゐた雨が夕方から激しく風を呼んで暴風雨となったが夜明となってやうやくをさまった。野分が過ぎて山の上の部落はにはかに冷々と秋らしくなった。
昨夜の大雨で森田家の墓地には、裏手の山からおびただしく土砂が押し出して来て、そこら中目もあてられぬ程の荒れ様だった。水溜りがいっぱい出来て、おまけに利国の墓には盛土の横腹にドカンとした大穴があいた。そこから水が流れ込んだと見え、屋根は引っくり返り墓標がガサリと落ち込んで了った。
その朝早く、朝草刈に近道を抜けて来た、おときが見付けて「おお、怖っかねえ!」と魂消た声をだした。そして小さい男の児を急《せ》き立てて、「さァ、さっさと歩かんと利国さのお化が出てくるぞ!」とおどかした。
おときは坂の上から志津を呼んでそのことを話して行った。
翌日になって志津は隣の源吉を頼んで墓地の掃除をはじめた。先祖代々の物々しい墓石が列を作って幾列もならんでゐる。広い地所丈に荒れ切って落莫としたものだった。
一番前列に、善次郎、お安、おたけ、紋治、そして利国のがならんでゐる。石碑が立たぬのでどれも形許りの土饅頭で、墓標の文字が辛うじて読めた。
「おばあさまのが一番しっかり出来とる」
源吉はさう云った。まだ何んと云っても、お安の死んだ頃には、森田家にも残りの光があったのだ。それが最後の利国の場合には、まるで形許りのものだった。
隣部落から頼んだ禰宜様が、汚れた白足袋を穿いたままで、通り一遍の祝詞《のりと》をあげたきり、なにしろ北風の寒い日で吹きさらしの墓場にはゐられないので、お義理に集った部落の者達もそこそこに引き揚げて了ったのだった。
源吉は志津を相手にして、土を連びだしたり盛土を盛り直して屋根をつくろったりした。学校から帰って来た久衛と秀とが墓場に上って来てから急に賑かになった。源吉は自分の藪から伐って来た青竹で作った竹筒を一本づつ墓の横へ立てた。
「なんでたかつっぽ立てるの?」秀は父親に聞いた。
「花を立てて進ぜるんだ。仏さまにな」
「お父っさまに灯をつけて進ぜるんだに」
志津は久衛に云った。
「灯を進ぜるってどうやるんな?」
「いつか新ちゃんとこでしたやうにかな? 蝋燭をうんとつけて……」二人の子供は同時に聞いた。
「うん、八百燈をな」
「どこへ灯をつけるんな?」
「ここのまはりから街道の方へつけて行くやうにするだな」
源吉は志津に計るやうに云った。
うるさく問ひ質した秀と久衛はその時思はず顔を見合せた。
「やア!」といかにも悦ばしさうな声を上げた。
「やア、灯をつけるんだってよォ
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