がすがしい気持で、それらをながめながら、店さきの敷石《しきいし》の上を、きれいにはききよめるのでした。
時計《とけい》も、まだ六時前です。電車《でんしゃ》は、黒い割引《わりびき》の札《ふだ》をぶらさげて、さわやかなベルの音をひびかせながら走っていました。店の前を通る人たちも、まだたいていは、しるしばんてんや、青い職工服《しょっこうふく》をきて、べんとう箱のつつみをぶらさげた人たちです。そういう人たちの中には、いつとはなしに要吉と顔なじみになっている人もありました。
「よ、おはよう。せいがでるね。」
若い人は、いせいよく声をかけながら、新しい麻裏《あさうら》ぞうりで要吉のまいた水の上を、ひょいひょいと拾《ひろ》い歩《ある》きにとんでいきました。なっとう屋のおばあさんが見えなくなったと思うと、このごろでは、金《きん》ボタンの制服《せいふく》をきた少年が、「なっとなっとう」となれない呼《よ》び声《ごえ》をたてて歩いていました。
そんな朝の町すじをながめながら、店さきをはいている時は、要吉にとっては一日中でいちばん楽しい時なのでした。なぜかというと、それから朝の食事《しょくじ》がすむと、
前へ
次へ
全14ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木内 高音 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング