へ、くさりものをすてにいかなければならないのか。」
そう思うと、要吉《ようきち》はなんともいえないいやな気持になりました。商売《しょうばい》というものが、どうしても、こういうことを見越《みこ》してしなければならないものだったら、なんといういやなことだろう。
しかし、要吉は、水菓子屋の店をとびだすわけにはいきませんでした。要吉が徴兵検査《ちょうへいけんさ》まで勤《つと》めあげるという約束《やくそく》で、要吉の父は、水菓子屋の主人から何百円かのお金をかりたのです。
いくら考えても、要吉には、商売のためにはたべられるものを、くさらせていいというりくつ[#「りくつ」に傍点]はわかりませんでした。
「大きくなったらわかるだろう。」要吉はそういって自分をなぐさめるよりほかはありませんでした。
「それに年期《ねんき》があけたら、自分でひとつ店をだすんだ。そうすればけっして、品物をむざむざとくさらせるようなことはしやしない。くさりそうだったら、ただでも人にたべてもらう。」
要吉はそうも考えてみました。しかし、それは、要吉が大きくなってみなければ、できることだかどうだかわかりません。
「……その上に、おやしきなどで、たべもせずにすててしまうのは、いったいどうしたことだろう。」
これは、なおさら要吉ひとりきりでは解決《かいけつ》できない問題《もんだい》でした。要吉は、女中の平気《へいき》な顔を思いだすと、ただなんとなく、腹がたってたまりませんでした。
「みんな、もののねうちをしらないんだ。」
要吉はしばらくしてこうつぶやきました。しかしそれだけでは要吉の胸の中につかえている重くるしい塊《かたまり》は少しも軽くはなりませんでした。[#地付き](昭3・7)
底本:「赤い鳥代表作集 2」小峰書店
1958(昭和33)年11月15日第1刷
1982(昭和57)年2月15日第21刷
初出:「赤い鳥」赤い鳥社
1928(昭和3)年7月号
入力:林 幸雄
校正:川山隆
2008年4月9日作成
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