ちゅう》にぶらさがったままで力をこめてハンドルをまわした。
 ……それから、あとのことは自分はなにもおぼえていない。
 すぐつぎの駅《えき》で、自分は腰《こし》から下に火傷《やけど》をして、気絶《きぜつ》しているところを助《たす》けられた。
 ころんだ時に、ズボンのうしろにしみこませた油《あぶら》に火がついたものらしいが、なるほど、しりっぺたをもやしていたのだから、くまも、よりつかなかったわけではないか。――ただ、この間《かん》二十分か三十分のことが、自分には実《じつ》に実に長いことに思われてならない。

 くまは、わけなく生捕《いけど》られた。始発駅《しはつえき》で、さけのつみこみを終《おわ》って、戸をしめるすき[#「すき」に傍点]にはいりこんだものだろうが、なにしろひとりで汽車へ乗《の》りこんだくまもめずらしいというので、駅員《えきいん》たちがだいじに飼《か》っていたが、二年あまりで死んでしまった。[#地付き](昭2・3〜4)



底本:「赤い鳥代表作集 2」小峰書店
   1958(昭和33)年11月15日第1刷
   1982(昭和57)年2月15日第21刷
初出;「赤い鳥」赤い鳥社
   1927(昭和2)年3〜4月号
入力:林 幸雄
校正:川山隆
2008年4月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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