の動揺《どうよう》のために、ともすると、よろけそうになるのを、じっとふみこらえて、ランプを片《かた》すみにさしつけると、大きな大入道《おおにゅうどう》のような影法師《かげぼうし》がうしろの板《いた》かべにいっぱいうつった。ぎょっとして、目を見はると、ふいに、すみの方でピカッと光ったものがある。自分は瞬間《しゅんかん》、ぞおっとして、立ちすくんでしまった。光りものは二つ。ランプの光をうけて、らんらんとかがやき、ぐるぐるとほのおのようにうずまいている。
「くまだ!」
 そう気がつくと、自分はかえって、一時|落着《おちつ》いたくらいであった。どうしてくまなぞがはいりこんだものか、そんな疑問《ぎもん》をいだくよゆうもなく、自分は、ランプを持った手を、ぐいと、くまの方にさしだして、一歩《いっぽ》しりぞいて身がまえた。くまは火をおそれる、ということをとっさの間にも、思い出したものとみえる。
「ううううううう………。」
 くまもふいをうたれておどろいたらしく、ひくいうなり声をあげながら、じりじりとしりごみをしはじめた。
「このすきに、にげなければ………。」
 ふっと気がついて、ランプをさしつけたまま
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