大きな板戸《いたど》の、すきまをもれていましがた上がったと思われる月がさしこんできたのであった。自分は、なんというわけもなく勇《いさ》みたった。月の光をたどって見ると、さけの山にかけられたむしろ[#「むしろ」に傍点]が二、三|枚《まい》、足もとに落ちている。
「これだ。」自分は、とっさに思った。「火だ、火だ。」
 自分は、あせりにあせって、ポケットのマッチをさがそうとしたところが、どうしても手がポケットにはいらない。もどかしく思って、ぐッと手をおしこもうとすると、ポキリと折《お》れたものがある。見ると、それはろうそくではないか。――さっき、ころんだひょうしにポケットからとびだしたのを、むちゅうで、手さぐりでつかんでいたものとみえる。
 二、三本いっしょにマッチをすると、自分はまずそれをろうそくにうつした。――やぶれたガラスまどへ片手をつっこんだまま中腰《ちゅうごし》に立っているくまのすがたが、きゅうに明かるく照《て》らしだされた。にわかに火を見たくまの目は、ギロギロとくるいだしそうに光った。
 自分は、むしろに火をつけた。メラメラともえ上がったと思うと、しめり気《け》があるとみえて、す
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