ぐに力なく消《き》えそうになる。
くまは、低《ひく》く長くうなりだした。それは、さっきまでほえたような声とちがって、大敵《たいてき》に出会《であ》った場合《ばあい》に、たがいにすきをねらってにらみ合っているような、不気味《ぶきみ》なものだった。
こっちの火勢《かせい》がよわければ、今にもとびかかろうかという気配《けはい》が見えた。
自分は、さっき石油《せきゆ》がこぼれたと思うあたりに、足で下に落ちているむしろをおしやり、手に持った一枚のもえかけたむしろを、楯《たて》のようにからだの前にかざしながら、足さきで、むしろに石油をしみこませようと、ごしごしと下のむしろをふみつづけた。
くまは、まだうなりながら、自分をにらみすえている。
手に持っているむしろが、消《き》えないうちに、手早《てばや》く自分は、床《ゆか》のむしろをひろい上げた。
石油がしみたのか、むしろがかわいていたのか、今度《こんど》は、勢《いきおい》よく一時にパッともえついた。
この機会《きかい》をはずしてはと、自分は、もう、おそろしさもわすれて――実《じつ》は、おそろしさのあまりだが――もえ上がるむしろを、ちょう
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