ったく、そんな、人の話などを思いだしていたのだからみょうではないか。
「ごーっ。」
というひびきが、列車《れっしゃ》全体《ぜんたい》をつつむようにとどろきわたった。
「鉄橋《てっきょう》だ。」
と思うと、自分はもうじっとしていられなかった。川をわたってから約《やく》二マイルのところが例《れい》の難所《なんしょ》なのだ。機関士《きかんし》も、十分《じゅうぶん》に速度《そくど》を落《おと》しはするが、後部《こうぶ》のブレーキは、どうしてもまかなければならないことになっている。が、速度のついた列車が、機関車のブレーキ一つで支《ささ》え切《き》れないとすると、脱線《だっせん》か転覆《てんぷく》……か。わずか二、三|両《りょう》ではあるが、混合列車《こんごうれっしゃ》のことなので客車も連結《れんけつ》されている。その乗客《じょうきゃく》たちの運命《うんめい》は、まったく、自分ひとりの腕《うで》にあるといっていい。
自分は、足をふみしめて立ち上がった。と、ふいに明かるい光が一すじ、目の前を走って、暗い車内にななめの線を落している。
「月だ……月の光だ!」
貨車《かしゃ》の横腹《よこばら》にある
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