ばへきて、自分をかぎまわしているのが、はっきりとわかる。かれは、まったく死んだようになって、心臓《しんぞう》の鼓動《こどう》までも止めるようにしていた。もっとも、そんな時にはかえって心臓はドキドキとはげしく打《う》ったことだろうが……。じょうだん[#「じょうだん」に傍点]はさておき、二|分《ふん》……三分……そのうちにくまのけはいがしなくなったように思われた。その男は、もういいだろうと思って、かすかにうす目をあいて見たのだそうだ。――その瞬間《しゅんかん》、ザクンと一打《ひとうち》、大きなくまの手が、かれの右の額《ひたい》から頭にかけて打ちおろされた。男は、むちゅうでバネ仕掛《じかけ》のようにとび上がって、あとはどうしたのか自分にはわからない。ともかくその男は助《たす》かったそうである。大方《おおかた》、くまもふいをうたれてびっくりしたのだろう。しかし、目をあいて見るまでの時間は、わずか一分か二分だったのだろうが、その男には、どんなに長く感《かん》じられたことだろう。――
つい、話が横道《よこみち》にそれた。――しかし、くまといっしょに貨車《かしゃ》の中にとじこめられたまま、自分はま
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