うじん》しながら、そろそろとあたりをかき探《さが》してみた。なんというあてもない、ただ自分は、むちゅうでそんなことをしていたのだ。
「うわう……。」
くまは、またうなり声をあげた。自分は、ぎょっとして、そちらを見すかしたが、真暗《まっくら》やみの中で、よくは見えないが、くまは戸口に前足をかけたまま、動《うご》かずにいるようだ。
自分は、その時、みょうなことを考えた。――いや、考えたことがらは、みょうでもなんでもないのだが、そんな、せっぱつまった場合《ばあい》に、よくも、あんな、のんきなことを考えだしたものだと、それがみょうなのだ。
それは、自分がいままでにきいたくまについての、いろんなめずらしい話なのだ。そんなものが、つぎからつぎへと頭《あたま》にうかんできた。
……そのうちの一つは、ふいに山の中でくまにでくわした人の話だった。そういう場合に、死んだふりをするということはだれでも知っている。しかし、これは、それにしてもものすごい話だった。――その人は、やはり、どうすることもできず、仕方《しかた》なしにたおれて息《いき》を殺《ころ》していたのだそうである。くまが、頭《あたま》のそ
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