てか、爪《つめ》をとぐねこのように、バリバリとそばの羽目板《はめいた》に爪をたてた。
一息《ひといき》ついた自分は、とっさに戸の上部《じょうぶ》のガラスまどをやぶろうと考えた。いきなり、うしろをふりむくと、手にした旗《はた》のぼうでガラスをつきくだいた。ガラガラとガラスの破片《はへん》のとびちる音が気味悪《きみわる》くひびいた。同時《どうじ》にくるいたったくまは一声《ひとこえ》高くうなると、自分を目がけてとびかかってきた。あぶないところでむきなおった自分は、むちゅうで、横ざまにからだをなげだした。そのひょうしに、シグナル・ランプは、ガチャンとはげしい音をたててこわれてしまった。
なまぐさい、べとべとしたさけの中にはいつくばっている自分の、うしろの方で、くまはううううと、うなっている。さいわいに、くまの爪《つめ》にはかからなかったが、たった一つののがれ道であるまど口《ぐち》を、くまのために占領《せんりょう》されてしまったのである。
列車《れっしゃ》は、くまと自分とを真暗《まっくら》やみの貨車《かしゃ》の中にとじこめたまま、なにも知らずに、どんどんとはしっている。少し速度《そくど》が
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